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東京地方裁判所 平成2年(レ)99号 判決

控訴人 金澤春男

右訴訟代理人弁護士 田口哲朗

同 山田裕明

被控訴人 株式会社イコー

右代表者代表取締役 三浦幸子

右訴訟代理人弁護士 渡辺正造

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取り消す。控訴人と被控訴人との間において、別紙計算表借入番号1記載の控訴人の債務が存在しないことを確認する。控訴人と被控訴人との間において、別紙計算表借入番号2記載の控訴人の債務が金三四万五二八一円を超えては存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示の記載と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表三行目から四行目及び一二行目「被告は、原告に対し」を「原告は、被告に対し」に改める。

二  被控訴人代理人の陳述

控訴人が請求の原因3の相殺の意思表示をしたことは認める。

三  控訴人代理人の陳述

1  利息を支払期前に小切手をもって一括して支払った場合は、貸金業の規制等に関する法律四三条一項の「利息として任意に支払った場合」には該当しないから、同条の適用はない。

2  控訴人は本件債務の連帯保証人であり、利息制限法の制限内の利息及び遅延損害金を支払えば足りるという合理的期待を抱いているところ、本件において制限超過利息を支払ったのは主債務者であり、主債務者の行為により事後的に連帯保証人の責任を加重することは保証債務の附従性に照らし許されない。

《証拠関係省略》

理由

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと考える。その理由は、次のように付加訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表一二行目「したこと」の次に「並びに控訴人がその主張のとおり被控訴人に対し相殺の意思表示をしたこと」を、原判決五枚目裏二行目「乙二五号証」の次に「原審における証人三浦惇弘の証言により真正に成立したものと認められる乙二九号証及び同証人の証言」を、同三行目「争いのない」の次に「乙一、」を、「乙四、」の次に「乙二五、」を、同四行目「事実は、」の次に「原審並びに当審における」を、それぞれ加える。

二  原判決五枚目裏九行目「られるので」を「られ、また当審における証人三浦惇弘の証言により真正に成立したものと認められる乙四八号証の一、二及び同証人の証言によると、訴外人は乙債務の借入れの後に被控訴人に対し手形の割引を依頼したことが認められ、右依頼のため被控訴人の店舗に来店した際に署名したものと推認できるので、証人福田の」に改める。

三  原判決五枚目裏一一行目から同六枚目表末行までを次のように改める。

控訴人は、利息を支払期前に小切手をもって一括して支払った場合は貸金業の規制等に関する法律四三条一項にいう「利息として任意に支払った」場合に該当しないと主張するが、本件で超過利息に充当されるかどうかに争いがあるのは、振り出された小切手のうち支払銀行により決済された分についてであり、小切手金が支払銀行により支払われれば、それが同条の「支払った金銭」に該当するのは当然のことである(なお、本件は個人振出小切手の事案である。)。

ところで、同条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは、債務者が利息についての契約に基づき利息の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって金銭を支払ったことをいい、本件のように各月額返済元金と超過利息との合計金額を額面金額とし各分割支払日を振出日とする個人振出の先日付小切手が消費貸借契約締結時に一括して振り出された場合には、前判示のとおり各小切手が各支払期日に支払銀行において決済されることにより同条一項にいう「支払った」に該当することになるのであるから、右決済の時点において債務者の任意性が具備されなければならない。しかし、各小切手の決済日には、債権者と支払銀行との間で小切手が決済され、債務者の行為は何ら必要とされないのが通常であるから、任意性の有無は、決済日において債務者が何らかの行為に出た場合は格別、そうでなければ、専ら、先日付小切手振出時の事情、決済後の事情等を総合考慮の上判断しなければならない。

《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

1  訴外人は、新聞広告により被控訴人の営業内容を知ったが、同広告には小切手で貸すという趣旨の記載があった。

2  訴外人は、本件各貸付に先立つ昭和六一年七月二四日、被控訴人から五〇万円を借り受けたが、その際にも同人は元利金の返済のために先日付小切手を八通振り出し、各小切手の決済により完済した。

3  訴外人は、本件貸付当時、コンベアの修理、製造、販売の個人営業を営み、右営業の運転資金に充てるために本件各借入れをした。

本件各小切手の支払銀行は、同人が自己の営業のために当座預金口座を開設していた日興信用金庫お花茶屋支店である。

また、同人は被控訴人から借り入れる以前にも、金融業者に対し、借入れの返済のために手形や小切手を振り出したことがあった。

4  被控訴人は、本件各貸付の際、訴外人に対し、先日付小切手の受領と引換えに、手形・小切手振出確認書、受領明細書及び返済計画書を交付しており、右書面には、先日付小切手の金額が元金の分割額と利息の合計額であることが明記されている。

5  甲債務については二〇回分割払のところ第一八回期日まで、乙債務については一二回分割払のところ第一一回まで、順次各支払期日に小切手が決済され、被控訴人は決済後直ちに受取証書兼残高確認書を作成し、訴外人に対して発送した。

右受取証書兼残高確認書には、返済金額のうち利息充当金額が明記されており、訴外人は、右受取証書兼残高確認書を受け取り、最初の契約書のとおりの金額であることを確認していたが、超過利息への充当について異議を唱えることは一度もなかった。

6  訴外人は、甲債務については、乙債務の借入れの申込みのため並びに手形の割引を依頼するため同人が被控訴人の店舗を訪れた際に、乙債務については、手形の割引を依頼するために被控訴人の店舗を訪れた際に、被控訴人の求めに応じ、それぞれそれまでに発行されていた各受取証書兼残高確認書に署名をした。

7  被控訴人においては、債務者から小切手の呈示の猶予を依頼された場合には、呈示期間の範囲内で呈示を猶予することもあり、また、呈示期間前に現金を持参した場合には現金と引換えに小切手を返還することもあった。

以上のように認められる。

右事実によると、訴外人は、平素から小切手を利用し、本件各借入れ以前に被控訴人から借入れをした際にも小切手による返済をしたことがあり、先日付小切手による支払方法を十分承知の上各小切手を振り出したものであり、各小切手の決済日において超過利息分への充当について何らの異議も述べず、受取証書兼残高確認書の金額を確認しながら、不渡となるまで甲債務については一八回、乙債務については一一回の決済を完了させている上、後日において、各受取証書兼残高確認書に署名したというのであるから、これらの事実を総合すると、同人は利息についての契約に基づき利息の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払をしたと推認するのが相当である。《証拠判断省略》

また、控訴人が保証債務の附従性に反すると主張する点は、主債務者による貸金債務の弁済が超過利息に充当されるため元金債務が残存しており、右残元金債務額の範囲で控訴人には連帯保証債務が残存しているというにすぎず、連帯保証人である控訴人に対し超過利息分の債務を負担させるものではないから、事後的に連帯保証人の責任を加重したということはできない。したがって、控訴人の右主張は理由がない。

七 原判決六枚目裏五行目ないし七行目を次のように改める。

《証拠省略》によると、貸付契約説明書第二項には、本契約に基づき公正証書を作成する場合には利息及び損害金は利息制限法に基づく利率とするが、本契約の実質約定利息及び損害金は別紙契約証書(借用証書)記載のとおりとする旨の記載があることが認められるし、公正証書の作成については、公証人法二六条の規定により利息制限法所定の制限を超える利息の合意を定めることができないのが本来であって、同法所定の利率に引き直して作成する取扱が一般であるから、甲第一、第二号証の各公正証書の利息が利息制限法の制限内のものとして作成されていることをもって、約定利息を後日遡及的に減額する旨の合意があったと推認することは相当でなく、ほかにこのような合意の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、再抗弁は理由がない。

以上のとおりであって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法八九条、九五条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 前田英子 裁判官荒井勉は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 新村正人)

〈以下省略〉

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